第6話 めぐり会い

【あらすじ】

船医の如月から電話がかかってきた。5年ぶりに日本に戻り、横浜に滞在しているという。港の見える丘公園で待ち合わせの約束をし、車で向かおうとするBJ。女の勘が働いたのか、ついて来ようとするピノコを説得できず、待ち合わせ場所へと向かうのだった。

 

【思ったこと】

BJの過去の恋愛が描かれた作品です。

船医の如月は子宮がんが原因で、子宮も卵巣も摘出してしまいました。

そのため男として生きることを選択し、船医となった過去を持ちます。

摘出前、女性として過ごしていた頃にBJと相思相愛になれども、お互いに気持ちは伝えられず、摘出手術をするその時に最初で最後の想いを伝え合う、ちょっと切ないストーリーです。

 

およそ色恋沙汰には無縁と思われるBJですが、ちゃんと人としての感情は持っています。生き方が不器用ゆえ誤解されがちなBJですが、女性だったころの如月はちゃんとBJの心根を見ていたのですね。

 

見た目は幼児ですが、心は18歳(奇形嚢腫の中で意思をもって姉とともに18年間生きてきたのですから)のピノコが、やきもちを焼く姿もかわいらしいです。

第5話 ときには真珠のように

【あらすじ】

BJの元に小包が届いた。開けるとそこには、棒状の石のようなもので覆われた一本のメスが入っていた。ただ一つ同封されていた紙に書かれたJ・Hの文字を手掛かりに、送り主が「本間丈太郎」だと思いいたる。少年時代に大怪我を負ったBJを、オペで救った命の恩人その人だった。何らかの意思を感じ取ったBJは、本間丈太郎医師を訪ねるのだった。

 

【思ったこと】

ブラックジャックで好きな作品の一つです。

棒状の石のようなもので覆われたメスは、BJの体内に置き忘れてしまったもの。

医療ミスの発覚を恐れ、体内に置き忘れたメスが他の臓器などを傷つけてしまうことを恐れ、7年後メスを取り出すことができた後も、BJ本人には伝えることができず、結局死ぬ間際まで先延ばしてしまった本間医師の人間臭さに、共感を覚えてしまいます。

 

また生命の神秘にも触れられている作品です。

肝臓の下に置き忘れられたメスは、7年間の歳月をかけ、BJの体内から染み出したカルシウムの鞘に保護される形で保管されていました。

 

BJが訪ねた時には、本間医師は床に臥せていて、余命幾ばくもない状況でした。

死期を悟った本間医師は、どんな医学も生命の不思議さにはかなわないと語り、BJの必死のオペも空しく息絶えてしまいます。

BJのオペは完璧だったのですが、天命には逆らえなかったのです。

 

「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね・・・」

天に召された本間医師から慰められるBJが印象的な最後の場面、医師の存在意義を思い悩んでいたんだと思います。

 

合理的でクールで強欲、時にニヒリスト。

そんなイメージを世間から(作中の世界ではなく)抱かれているブラックジャックですが、医師とは?命とは?と思い悩む事も多く、そこがとても魅力的で、僕がブラックジャックを好きな理由だったりもします。

 

第4話 人面瘡

【あらすじ】

日本だけでなく、外国の記録にも見られる「人面瘡」。BJの診療所に一人の男が訪れた。サングラスに顔面包帯、その素顔は醜く変形した異形の相だった。あるきっかけで顔にできものができ、それが顔中に広がって見るも無残な顔になってしまったのだ。男によれば「人面瘡」で、しかも男の意志とは裏腹に物を言うこともあるという。一種の化膿症と見立てたBJは、オペで処置することにしたのだった。

 

【思ったこと】

結局男は連続殺人鬼(医学的には殺人嗜好症)で、これまで18人殺害していて、男の心に残っていた良心が「人面瘡」という形で現れ、殺人願望を抑制していたという話です。調べたところ、「人面瘡」は一種の都市伝説の類と思われます。今回ここに記すまで、なんとなく実際に起こり得る症状だと思っていたのですが、どうやら違ったようです。

 

この人面瘡を題材に、横溝正史氏をはじめ、何人かの作家さんたちが作品を残していることを知りました。特に横溝正史氏は自分が高校時代にかなり読んでいたのですが、人面瘡という作品は知らず、ちょっと読んでみたいと思いました。

 

この作品、読後感は悪いです 笑

なんでなのか考えてみましたが、よくわかりません。

 

第3話 奇形嚢腫

【あらすじ】

深夜にBJ宅の電話のベルが鳴る。横培病院の可児博士からだった。今夜を逃すと患者が死んでしまうオペの依頼だった。難色を示すBJだが、一方的に押しかけられオペをせざるを得ない状況になってしまう。とある高貴な身分の女性にできた腫瘍を切除するオペで、腫瘍は奇形嚢腫だという。今まで何度もオペを試みたが、立ち会ったものが突然おかしくなり、オペはいつも中止になってしまう。BJでないとできないオペだと言われ、オペに挑むBJだった。

 

【思ったこと】

ブラックジャックの重要キャラクター「ピノコ」の生い立ちが描かれた作品です。

奇形嚢腫は双子の片方が育ち損なって、もう片方の体に、できもののような状態で残ってしまうものを言います。

この作品の奇形嚢腫には、だいたいひとそろい人間の臓器が残っていて、オペ後BJは培養液で保存します。

完全人体に足りない部分は合成繊維で対応し、できたのが「ピノコ」です。

 

この作品を最初に読んだ時は、自分は中学生でした。

人体の内蔵やら脳やらの描写が生々しく、怖いもの見たさが先立つ読み方をした記憶があります。

今読み返すと(というか、かなり大人になってからも何度も読んでますが)、BJの優しさとか偏見の無さがじんわり表れている作品ですね。

ブラックジャックという作品は、「どんなに難しいオペもBJの天才的技術でたちどころに解決、めでたしめでたし」って単純なストーリーは少なくて、何がしかの余韻というか、読後に考えさせられる普遍的なテーマ、みたいなものが織り込まれているんですよね。

この辺りが大人になっても何度でも読み返せる「読返力(今作りましたw)」が強いと言われる所以です。

言われているか知りませんが。

第二話 春一番

【あらすじ】

女学生の角膜移植手術を請け負ったBJ。術後の状態は良く、また、難易度の高くない手術だった。ところが手術後、女学生の視界に幾度となく現れる男性の姿が。現れては消える男性の姿に、いつしか女学生は恋心をいだくのだった。

 

【思ったこと】

読後、作品タイトルの春一番に思いを馳せます。恋に恋する女学生(死語ですね)の初恋が、ショッキングな形で失恋に導かれます。誰しもが経験し、そのほとんどは失恋に終わると思われる初恋を、春一番に例えた作品ですね。ロマンというか詩的なものを覚感じるし、この女学生はH2Oの「想い出がいっぱい」の歌詞でいうところの、大人の階段を登ったんだなーって思います。

角膜の提供元の女性が、殺される瞬間に見た光景が角膜に焼き付き、提供先の女学生にも見えてしまうというロジックなんですが、角膜に光景が焼き付くって発想が、自分には出てこないです。本当にあり得るのかどうかわかりませんが、いかにもありそうな感じがして(自分だけかもですが)、納得させられちゃいます。

 

せっかく「想い出がいっぱい」を思い出したので、ぐぐってみたところ、結構色んなアーチストにカバーされてるんですね。

「想い出がいっぱい」を聴きながらこの作品を読むと、さらに味わい深いかもしれません。

第一話 医者はどこだ!

以前から書こう書こうと思っていましたが、先延ばしにしていたのが、ブラックジャックについてです。よろしくの方じゃなく、手塚治虫先生の作品の方です。

リアルタイムの連載を読んでいた世代じゃないのですが、自分が中学生の時、ライフワークだった書店通いの際に巡り合った豪華版がきっかけで、以来30年近く愛読しています。

この豪華版のみ、何度も何度も読み返し、多感な時期にはブラックジャック(以下BJ)になりたい、とさえ思い詰めました。

豪華版はリアルタイムの連載順ではなく、順不同で(何らかの規則性があるかもしれませんが)編集収録されています。

豪華版の収録順に、独断と偏見で書評もどきを書いていこうと思います。

 

金持ち(大実業家のニクラ)=悪

貧乏(仕立屋のデビイ)=善

って図式で構成されている話です。自業自得の自動車暴走の末、大怪我を負ったニクラの息子を、BJがオペで救うことになります。そのためには肉体などの移植手術が必要で、デビイを意図的に死刑にし、移植の提供者に。背景と経緯を知っているBJがどんな判断をするのか、が読みどころの一つです。

 

結局のところ、BJはデビイに、ニクラの息子に似せた顔面整形を施します。ニクラには息子をオペで治したと偽り、オペで得た報酬をデビイに渡すのです。(ニクラの影響力が少ないと思われる)海外でやり直す資金として。

 

普段の言動から誤解されがちなBJですが、こうした粋な計らいをすることも多々あります。弱気を助け、強気を憎む精神というか。この話は倫理観無視、自己中心的だが金と権力があるニクラを、BJが鮮やかに裁いたところに爽快感があります。